遺言執行者の選び方やその重要性|スムーズな相続手続きのために

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続きを行う人物で、相続財産の調査・目録作成・名義変更・遺贈の実行などを担う非常に重要な役割を持ちます。特に財産が多い場合や相続人同士の関係に不安がある場合には、信頼できる遺言執行者の指定が相続トラブルを未然に防ぐカギとなります。

投稿者プロフィール

投稿者のイラスト画像

遺言執行者の役割とは?

遺言執行者は、まず遺言に基づいて相続財産の調査を行い、「財産目録」を作成し相続人に交付する義務があります。財産目録には、不動産・預貯金・株式・負債などの詳細情報(名称・種類・数量・評価額など)を記載します。

この目録を交付することで、相続人は遺産の全体像を把握でき、遺産分割や手続きに関する誤解・トラブルの予防につながります。遺言執行者が指定されていない場合、遺言内容が実現されず、相続が混乱するおそれもあるため注意が必要です。

遺言執行者の指定方法

1.遺言書による指定(民法第1006条)

遺言執行者は、遺言者が遺言書の中で自ら指定する方法が一般的です。民法第1006条では、以下のように定められています。

遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

引用:民法第1006条

指定の際には、氏名・住所・職業・生年月日などにより、遺言執行者となる人物を特定できるよう明確に記載する必要があります

また、複数の遺言執行者を指定することも可能です。民法第1007条では、複数人が指定された場合、遺言に別段の定めがなければ「過半数の決定により職務を執行」するとされています。ただし、財産の保全に関する行為は各自単独で行うことが認められています。

2.家庭裁判所による選任(民法第1010条)

遺言書に遺言執行者の記載がない、または指定された人物が死亡・辞退した場合には、利害関係人が家庭裁判所に申し立てを行い、遺言執行者を選任してもらうことができます

この利害関係人には、相続人のほか、遺贈を受ける人や遺言者の債権者なども含まれます。申し立ては、遺言者の最終住所地を管轄する家庭裁判所で行い、申立費用として収入印紙800円と連絡用の郵便切手(郵券)が必要です。郵便切手の金額は家庭裁判所ごとに異なるため、事前に確認しましょう。

また、自筆証書遺言で法務局の遺言書保管制度を利用していない場合は、家庭裁判所への「遺言書の検認申立て」が先に必要となります。この点も見落としがちなポイントです。

遺言執行者の選び方と指定すべきケース

信頼できる人物を選ぶことが重要

遺言執行者は、遺言の内容を実現する強い法的権限を持ちます。民法第1015条では、遺言執行者がその権限内で行った行為は相続人に直接効力を及ぼすとされています。つまり、遺言執行者の判断や行動が相続手続きの結果を左右するため、信頼できる人物を選ぶことが非常に重要です。

なお、民法第1009条により、未成年者や破産者は遺言執行者になることができません。実際に選任する際は、資格要件を確認しましょう。

未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

引用:民法第1009条

遺言執行者には、親族や友人を選ぶこともできますが、司法書士や弁護士などの専門家を指定することで、法律知識に基づいた適切な手続きが期待できます。遺言書の内容が複雑な場合や、相続人同士の関係に不安がある場合は、中立かつ専門性のある第三者への依頼をおすすめします。

遺言執行者が「必ず必要なケース」

遺言執行者は常に必要なわけではありませんが、つぎのような内容が遺言に含まれている場合は、必ず遺言執行者が必要です。

遺言者が遺言で推定相続人の廃除(被相続人に対して虐待などをする相続人を、相続人から除外すること)の意思表示をしたときは、遺言執行者が家庭裁判所に請求することとされているため、遺言執行者が必ず必要になります(民法892条、893条)。

また、遺言で推定相続人の廃除の取消しをした場合についても同様となります(民法894条)。

認知は、遺言によっても、することができることとされています。遺言による認知がされている場合も、認知の届出を遺言執行者がすることとされています(民法781条2項、戸籍法64条)。該当する内容を含む遺言を作成する場合は、必ず遺言執行者を指定しましょう。

指定すべきケース|第三者への遺贈がある場合

遺言執行者を定めていなくても手続きが進むケースはありますが、特に遺産を相続人以外の第三者に遺贈する場合には、遺言執行者を明記することを強く推奨します。

たとえば、第三者に不動産を遺贈した場合、遺言執行者がいなければ、法定相続人全員の協力が必要となり、不動産の名義変更が煩雑化します。特に相続人が複数いるときは、全員の署名押印が必要になるなど、トラブルの原因にもなりかねません。

なお、遺贈を受ける第三者自身を遺言執行者として指定することも可能です。

遺言執行者の報酬について

遺言執行者を専門家に依頼する場合、通常は報酬が発生します。報酬は次の3つの方法により定まります。

1遺言者が遺言で報酬を定めたときは、その内容
2遺言に定めがない場合は、相続人との話し合い
3話し合いでも定まらない場合は、家庭裁判所が定めることができるとされています

報酬の相場はケースによって異なりますが、財産の総額や内容の複雑さによって変動します。

遺言者が契約した貸金庫がある場合の注意点

遺言者が生前に金融機関と貸金庫契約をしていた場合、遺言に貸金庫の開扉や解約に関する記載がないと、遺言執行者でも対応できないことがあります

このような場合、金融機関によっては、相続人全員の立会いや同意書を求められる可能性があるため、事前に確認しておくことが重要です。必要に応じて、遺言執行者に開扉の権限を明記する工夫や、少なくとも1名の相続人と共同で開扉するなど、公正性を確保する対策を取りましょう。

まとめ

遺言執行者は、遺言書の内容を実行に移すための法的義務と責任を担う存在です。誰を指定するかによって、相続手続きのスムーズさやトラブル回避に差が生じることがあります。

当事務所では、遺言執行者のご相談や専門家としての就任にも対応しております。遺言の作成や相続手続きでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。