株主総会の書面決議ガイド
株主総会の書面決議(みなし決議)は、場所にとらわれることなく、迅速な意思決定や株主の負担軽減に役立ちます。この記事では、書面決議の要件、手続き、議事録作成のポイントを解説します。
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目次
株主総会の書面決議とは?その基本とメリット
書面決議の概要と利点
従来、株主総会は実際に集まって開催することが原則ですが、準備や進行には多大な手間がかかります。そのため、会社法では、実際に開催せずとも株主総会決議や株主総会への報告があったものとみなすことができる規定が設けられています(以下、「書面決議」という。会319条、320条)。
この書面決議制度を利用すれば、株主が一同に会することなく、書面や電磁的記録の手段を利用して株主総会を行ったものとみなされるため、迅速かつ柔軟な意思決定が可能となります。
特に、株主が遠方に住んでいる場合や、株主数が少ない中小企業では、時間や場所の制約から解放されるため非常に便利です。
なお、書面決議の実施は、定款に特別な記載が不要なため、全ての株式会社で活用することができます。
書面決議を行う際の注意点
1つ目の注意点は、書面決議を有効に成立させるには、株主の全員(提案事項につき決議を要するときは、当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)が、当該事項につき書面又は電磁的記録により同意の意思表示をする必要があります(会319条、320条)。株主全員の同意が不可欠であり、ひとりでも同意しない株主がいれば、書面決議は成立しません。
2つ目のポイントは、監査役からの報告が必要な場合、その報告の省略はできないという点です。
たとえば、監査役からの報告は以下のものになります。
- 監査役が会計監査人を解任した場合に、解任後最初に招集された株主総会へのその旨及び解任の理由の報告(会340条3項)
- 取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査した場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときの、その調査の結果の株主総会への報告(会384条)
このように、全員の同意が基本という点と、監査役による報告の省略ができない点に注意しましょう。
書面決議の手続きと運用ポイント
書面決議の基本的な流れ
まず、会社は、株主全員へ株主総会で決議または報告すべき事項の提案または通知をします。提案方法は会社法上定められていませんが、確実に全株主が内容を確認できる手段を選びましょう。
次に、株主全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示を行います。会社法では署名や押印は義務付けられていませんが、実務上は証拠保全や予防法務の観点から押印や電子署名を求めることが推奨されます。
決議や報告があったものとみなされた日は、株主全員から同意の意思表示があったときになります。具体的には、全株主のうち最後の株主から同意の意思表示を受けた日が決議や報告があったものとみなされた日となります。
また、会社は、この同意に関する書面又は電磁的記録を、株主総会の決議があったものとみなされた日から10年間本店に備え置かなければなりません(会319条2項)。
議事録の作成と備え置き
書面決議の場合も、通常の株主総会と同様に議事録を作成しなければなりません。書面決議による株主総会議事録の記載事項は、次のように定められています(会社法施行規則72条4項)。
株主総会議事録の記載事項と備え置き義務までについてのコラムはこちら
株主総会の決議があったものとみなされた場合
イ 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
ロ 株主総会の決議があったものとみなされた事項の提案をした者の氏名又は名称
ハ 株主総会の決議があったものとみなされた日
ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
株主総会への報告があったものとみなされた場合
イ 株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
ロ 株主総会への報告があったものとみなされた日
ハ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
上記以外にも、株主の数を記載することがあります。
また、書面決議による株主総会議事録についても通常の株主総会議事録と同様に備え置き義務があります。議事録は本店に10年間、支店がある場合にはその写しを5年間備え置く義務があります。
書面決議のメリットとデメリット
書面決議には、多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。
メリットとしては、まず、株主総会の開催にかかるコストを削減できる点、迅速な意思決定が可能になる点が、大きなメリットです。
通常、株主総会を開催するには、事前の準備や招集通知の発送など、多くの時間と手間がかかりますが、書面決議であれば、これらのプロセスを省略し、 迅速に決議を行うことができ、株主の負担も軽減できます。
書面決議のデメリットとしては、全株主の同意が必要であるという点が挙げられます。 株主の中に一人でも反対者がいる場合、書面決議は成立しません。そのため、株主数が多く、意見がまとまりにくい企業にとっては、 書面決議を行うことが難しい場合があります。
また、株主とのコミュニケーションが不足する可能性がある点もデメリットとなります。所有と経営が分離している株式会社では、株主総会の開催は、経営陣と株主がコミュニケーションをし、信頼関係を築き相互理解を深めるられる場面でもあります。
まとめ|書面決議の活用で柔軟な会社運営を
書面決議は、中小企業や株主が遠方にいる場合など、スムーズな経営判断に大きく役立ちます。ただし、法令や定款で定められる手順や要件を満たしていることが前提となるため、ご不明点や不安な点がある場合は専門家へご相談ください。
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