就業規則における私傷病による休職規定|制度設計と運用のポイント
従業員が私傷病により長期間働けなくなるケースは、企業にとって避けられないリスクのひとつです。その際、就業規則に明確な休職規定があるかどうかは、従業員本人の生活と健康だけでなく、事業主側のリスクマネジメントにも大きな影響を与えます。
本記事では、就業規則における私傷病による休職制度の設計と運用について、目的や法律上の位置づけ、給与・社会保険との関係まで、実務に役立つポイントを解説します。
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休職制度とは?その目的と就業規則における役割
休職制度とは、従業員が業務を継続できない状況になった場合に、一定期間、労働義務を免除する制度です。契約関係を維持したまま、職場から離れることを可能にする仕組みであり、私傷病による長期間の休職に対応するためのものとして導入されることが多くあります。
休職制度の目的は、従業員の健康回復を支援し、復職の機会を保障することにあります。従業員にとっては、治療に専念できる安心感を得られ、事業主にとっても人材を守ることができるというメリットがあります。結果的に、従業員の定着率向上や、企業の信頼性向上にもつながります。
休職制度と傷病休暇の違いとは?
休職制度とは別に、傷病休暇を就業規則で設けている事業主もあります。混同されがちですが、休職制度と傷病休暇は異なる制度になります。
休職制度は、事業主が従業員に就業規則などの規定に基づいて、一方的な意思表示によりなされるものとなります。それに対して傷病休暇は、従業員が病気やケガの治療のために休む場合に認められる休暇で、従業員に私傷病の理由があったときに欠勤することを認める制度となります。
どちらも法的義務はありませんが、導入する場合には就業規則に明記する必要があります。また、給与を支払うか否か、期間の上限、復職の可否判断などについても、事前に明確にしておくことが、後のトラブル防止につながります。
就業規則に休職制度を定める重要性
休職制度は労働基準法などで義務付けられてはいませんが、導入するなら就業規則に具体的な規定を設けることが必須です。
規定に盛り込むべき主な内容は以下のとおりになります。
- 休職の対象となる事由(私傷病、メンタル不調など)
- 休職期間の上限
- 有給・無給の取り扱い
- 社会保険料の負担方法
- 復職の条件や手続き
- 期間満了後の処遇
これらを明文化することで、制度運用の公平性と一貫性を確保し、従業員の不安や誤解を防ぐことができます。
傷病休職中の給与と社会保険料の取り扱い
休職期間中の給与は、就業規則でどのように定めるかによって異なります。多くの企業では無給としていますが、一部または全額を有給とする運用も可能です。重要なのは、あらかじめ明文化しておくことです。
なお、無給であっても従業員が健康保険に加入していれば、傷病手当金の支給を受けられる場合があります。これは健康保険から支給される制度で、病気やけがにより働けない期間中、生活を支える役割を果たします。ただし、会社側が独自に給与を支払っている場合、その分は傷病手当金の支給額から差し引かれるため、制度設計の際には注意が必要です。
また、社会保険料(健康保険・厚生年金等)の支払い義務は、休職中も原則として継続します。たとえ給与が支払われていない場合でも、会社・従業員ともに保険料を負担する義務があるため、従業員の自己負担分の徴収方法についても、事前に取り決めておくことが望まれます。特に長期の休職が見込まれる場合には、トラブル防止の観点からも明確なルール整備が重要です。
休職から復職までの流れと対応ポイント
休職開始時には、医師の診断書などの客観的資料を基に、休職の必要性を判断しましょう。あわせて、休職の期間や制度の内容、社会保険料の取り扱いなどについて、従業員に丁寧に説明することが大切です。必要に応じて、復職までの見通しや方針についても共有しておくと、従業員の不安を和らげることができます。
休職中は、過度な干渉は避けつつも、適切な頻度で従業員と連絡を取り合う体制を整えることが重要です。復職に向けてのサポート体制や職場の受け入れ準備などを、段階的に進めていくことが求められます。
復職時には、体調や治療の経過を十分に考慮したうえで、段階的な勤務再開(短時間勤務や業務内容の調整など)を検討します。従業員の負担を軽減し、無理のない復職を実現するための配慮が必要です。
一方、休職期間が満了しても就労可能な状態に回復していない場合、自然退職や解雇という選択を検討せざるを得ないケースもあります。ただし、従前の業務に復帰できない場合でも、軽易な業務に従事できる状態であり、本人が就労を希望する場合には、配置転換の可能性を含めて検討することが法的にも求められます。
まとめ
私傷病による休職制度は、従業員が安心して療養に専念できる環境を提供し、職場復帰を支援する重要な制度です。事業主にとっても、人材流出の防止や職場の信頼性向上といったメリットがあります。
本記事では、休職制度の基本的な考え方から、給与や社会保険料の取り扱い、復職までの流れに至るまで、実務に役立つポイントを解説しました。
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