役員変更の登記方法と注意点(代表取締役の場合)
前回は、取締役や監査役の変更登記について解説しました。
代表取締役は、会社の業務を代表して行う重要な役職であり、選任・退任の際には、法務局での登記申請が必須です。たとえ代表者が変更されていなくても、取締役の任期満了や再任があった場合は変更登記が必要になるケースもあります。
本記事では、代表取締役の選任・退任の仕組みや、登記に必要な書類と注意点について、株式会社の実務を踏まえてわかりやすく解説します。
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目次
代表取締役の選定(選任)・退任と登記の基本
取締役会設置会社の場合
「取締役会設置会社」では、代表取締役を必ず1名以上置かなければならず、その選任は取締役会によって行います(会社法362条3項)。
代表取締役の地位は取締役の地位を前提としています。そのため、代表取締役は取締役の中から選ばれ、取締役の任期が満了すると、自動的に代表取締役としての地位も終了します。したがって、任期満了により取締役が退任した場合には、改めて代表取締役の選定と登記手続きが必要です。
取締役会設置会社であっても、公開会社でない株式会社の場合は、株主総会の決議により代表取締役を選定することができる旨の定款の定めは有効とされています(最判平成29年2月21日民集71巻2号195頁)。
取締役会を設置していない会社の場合
取締役会設置会社ではない場合、代表取締役を定めないことができます。この場合、すべての取締役が会社を代表する「各自代表」となります(会社法第349条第1項、第2項)。
ただし、実務上は代表者を1名に絞っておくことが多く、次のいずれかの方法で代表取締役を選任します(会社法349条3項)。
- 株主総会の決議で定める ※1
- 定款で定める ※1
- 定款の定めに基づく取締役の互選により定める ※2
※1 代表取締役の地位と取締役の地位は未分化(一体)。代表権のある取締役として選任されたもの解されています。代表者としての地位だけを一方的に辞任することができず、辞任をするには、株主総会の承認決議又は定款の変更が必要です。
※2 代表取締役の地位と取締役の地位は別であると解されています。取締役としての就任承諾の他に、代表取締役として別途就任承諾を要します。
このように、代表取締役の選任方法や辞任の可否は、会社の機関設計や定款の定めにより異なります。
代表取締役の変更登記に必要な書類と手続きの注意点
代表取締役が選定・退任した際には、会社の実務上も法的にも重要な変更となるため、速やかに法務局で登記を行う必要があります。ここでは、会社の形態別に必要となる書類と、提出時の注意点を整理して解説します。
代表取締役の氏名および住所は登記事項となっており、これらが変更された場合も登記が必要です。なお、2024年10月からは、代表取締役の住所の一部を非表示にできる制度も導入されました。
(詳しくは「代表取締役等の住所非表示措置の全面ガイド」をご覧ください)
取締役会設置会社の場合
- 取締役会議事録 ※1
- 就任承諾書(取締役会議事録で援用可能)
- 代表取締役が新しく就任する場合はその者の印鑑証明書
- 取締役会に出席した取締役と監査役全員の印鑑証明書 ※1 、※2
※1 会社法では、取締役会議事録は、出席した取締役と監査役に署名又は記名押印が必要です(会社法第369条第3項)。しかし、登記申請では、代表取締役を選定した取締役会議事録に、出席した取締役と監査役が押印した印鑑証明書が必要(商法登記規則第61条6号)となりますので、記名押印をすることになります。
※2 変更前の代表取締役が取締役議事録に登記所に提出している印鑑(会社の実印)を押印している場合は不要です。
取締役会設置会社でない場合
各自代表、株主総会又は定款で定める
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 株主総会の議長及び株主総会に出席した取締役の印鑑証明書 ※
※ 変更前の代表取締役が、株主総会議事録に登記所に提出している印鑑(会社の実印)を押印している場合は不要。
※ 代表取締役の地位と取締役の地位は未分化と解されているので、代表取締役としての就任承諾書は不要。
定款の定めに基づく取締役の互選で定める
- 取締役の互選書
- 定款
- 就任承諾書(互選書で援用可能)
- 取締役の互選書に押印した取締役全員の印鑑証明書 ※
※ 変更前の代表取締役が、代表取締役を定めた取締役の互選書に登記所に提出している印鑑(会社の実印)を押印している場合は不要。
登記の期限と費用
代表取締役の変更登記は、他の役員と同様に、変更が生じた日から2週間以内に申請する必要があります(会社法第915条第1項)。
遅れると過料の対象になるため、期限管理には注意しましょう。代表取締役の変更登記にかかる登録免許税も取締役などの変更登記と同様に、資本金の額により異なります。
資本金の額が1億円以下の会社の場合、1万円
資本金の額が1億円未満の会社の場合、3万円
なお、登記書類の作成や申請を司法書士に依頼する場合は、別途報酬が発生します。
最後に
代表取締役の変更登記について解説しました。
登記を怠ったときのデメリットは取締役等の変更登記の場合と同じになります。
また、代表取締役が交代した場合には、官公庁や金融機関への変更届の要否の確認や、取引先への挨拶状の送付なども併せて検討が必要です。
代表取締役の変更手続きがいまいちわからないという場合は、お気軽に当事務所までご相談ください。不明点がある場合は、お気軽に当事務所までご相談ください。登記の専門家である司法書士が、サポートいたします。