遺言の撤回とは?方法・文例・注意点を解説

遺言書は、相続に関する意思を明確に残すための有効な手段ですが、人生の変化により「内容を変えたい」「特定の記載を取り消したい」と思うこともあります。そんなときに必要となるのが「遺言の撤回」です。

この記事では、遺言の撤回とは何か、その方法や文例、実務上の注意点をわかりやすく解説します。遺言の撤回について正しく理解し、将来のトラブルを未然に防ぎましょう。

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遺言の撤回とは?法律上の基本ルール

「遺言の撤回」とは、すでに作成した遺言書の全部または一部を取り消し、法的効力を消滅させる行為を指します。遺言は、遺言者の最終意思を尊重する制度であるため、いつでも自由に撤回・変更が可能です。

民法でも以下のように明記されています。

民法第1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

民法第1026条(遺言の撤回権の放棄の禁止)
遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。

つまり、遺言を撤回するかどうかは、遺言者本人の意思に完全に委ねられているのです。

遺言の撤回が必要になる場面とは?

一度作成した遺言でも、その後の人生で状況が変わることは多くあります。遺言を撤回・変更する主な理由には、以下のようなケースが挙げられます。

  • 結婚・離婚・再婚など、家族構成の変化
  • 子どもの誕生、孫の誕生など新しい相続人の発生
  • 相続人の死亡や不仲などによる心境の変化
  • 財産の増減、不動産の売却や取得などの資産状況の変化

こうした変化があった場合、遺言内容が現状に合わなくなることがあり、古い遺言が原因で相続トラブルになる可能性もあります。このため、遺言内容の見直しは定期的に行うべきです。

遺言を撤回するタイミングと法的効果

遺言の撤回とは、前にした遺言の内容を消滅させる行為です。撤回が有効に成立すると、撤回された遺言はなかったものとして扱われます。

遺言の撤回は、遺言者が生存中であればいつでも自由に行うことができます。撤回が有効に行われると、以前の遺言書は「なかったもの」として扱われ、その効力を失います。

特に新たな遺言書を作成する場合は、内容が前の遺言と重複または矛盾することもあるため、後の遺言が優先されます(民法第1023条)。ただし、誤解や争いを防ぐためにも、以前の遺言を特定し「撤回する」と明示するようにしましょう。

遺言の撤回方法と具体的な手続き

遺言を撤回する最も確実な方法は、新しい遺言書を作成することです。民法第1023条では、「後の遺言が前の遺言と抵触する場合には、その抵触する部分について前の遺言を撤回したものとみなす」と定められています。

つまり、新しい遺言が古い遺言と内容的に矛盾する部分があれば、自動的に新しい遺言が優先され、古い内容は撤回されたとみなされる仕組みです。しかし、内容の矛盾が明確でない場合には、法的解釈が分かれたり、相続人間で争いが生じるリスクがあります。そのため、新たな遺言書を作成する際は、以前の遺言を明確に特定し、撤回の意思を明文化するようにしましょう。

例えば、
「遺言者は、令和〇年〇月〇日付で作成した自筆証書遺言を全部撤回する。」

このように記載することで、古い遺言との混同や法的解釈のずれを防ぎ、相続トラブルのリスクを最小限に抑えることができます。

また、新しい遺言書の形式は、以前のものと同一である必要はありません。たとえば、以前の遺言が自筆証書遺言であったとしても、新たな遺言書は公正証書遺言で作成することが可能です。逆に、公正証書遺言を撤回したい場合に、自筆証書遺言で行うこともできます。ただし、どちらの形式においても、法定の方式を守らなければ無効となるため注意が必要です。

撤回の撤回はできる?

一度撤回した遺言を「やはり元に戻したい」と思った場合、その撤回の撤回(元に戻すこと)は原則として認められていません。一度撤回された遺言は、法的には「存在しなかったもの」として扱われ、元の効力を取り戻すことはできないのです。

ただし、例外的に、詐欺や強迫によって撤回された場合には、その撤回自体が無効とされ、元の遺言の効力が復活することがあります。しかし、こうしたケースは非常に稀で、かつその状況や証拠を立証するのは極めて困難です。

したがって、「撤回をやめたい」「元の内容に戻したい」と考えた場合でも、元の遺言を復活させるのではなく、再度、同様の内容の新しい遺言書を作成する必要があります

まとめ|遺言の撤回を検討している方へ

遺言は、相続に関するトラブルを予防し、大切な家族に自分の意思をしっかりと伝えるための手段です。しかし、人生の中で環境や人間関係、財産状況が変化することは当然のことです。そんなときに遺言の撤回という制度を活用することで、常に最新の意思を法的に残すことができます

ただし、遺言の撤回や再作成には、形式や文言の不備により無効となるリスクもあるため、ご不安な方は専門家のサポートを受けることをおすすめします

当事務所は、遺言に関する相談もお受けしています。お気軽にご相談ください。
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