会社における抵当権設定と利益相反について

会社が抵当権を設定する際、会社と取締役や業務を執行する社員との間で利益相反が問題となることがあります。利益相反取引にかかる抵当権の設定は、会社にリスクをもたらす可能性があります。本記事では、会社法上の規制や具体的な手続き、注意点について解説します。

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抵当権設定における利益相反とは

利益相反行為の定義

会社法における会社における利益相反行為とは、
①取締役または業務を執行する社員(以下。「取締役等」といいます。)が自己または第三者のために会社の利益に反する行為を行うこと及び
②会社が取締役等の債務を保証することその他取締役以外の者(持分会社の場合は、その他社員でない者)との間において会社と当該取締役等との利益が相反する取引をしようとするときを指します(会356条、595条)。

抵当権設定においては、会社が取締役等の債務のために担保提供する場合などが該当します。 具体的には、取締役等が個人的な借金を返済するために、会社の不動産を担保として提供するケースがその一つです。この場合、将来的に会社は取締役等の債務を肩代わりする可能性があり、会社の財産が減少するリスクが生じます。このような利益相反行為は、株主の利益を損なう可能性もあります。

抵当権設定が利益相反となるケース

典型的な利益相反取引は、会社の取締役等の債務を、会社が不動産などの担保を提供する場合になります(ケース1)。

次のケースで考えますと、代表取締役が同じA会社とB会社があるとします。Aの会社の債務をBの会社が担保を提供するとします。この場合も、利益相反取引になります(ケース2)。

別のケースでは、株式会社Aの代表取締役が甲で、株式会社Bの代表取締役が乙だとします。そして、株式会社Aの代表取締役である甲は、株式会社Bの代表取締役ではない取締役だったとします。Aの会社の債務をBの会社が担保を提供するとします。このケースも、利益相反取引となります(ケース3)。

利益相反に該当しないケース

株式会社Aの代表取締役が甲で、株式会社Bの代表取締役が乙だとします(ここまでは、ケース3と同じです)。株式会社Bの代表取締役である乙は、株式会社Aの代表取締役でない取締役だったとします。株式会社Aの代表取締役である甲は、株式会社Bの代表取締役でも取締役でもありません。Aの会社の債務をBの会社が担保を提供するとします。このケースでは、利益相反取引とはなりません。

利益相反となる場合の会社法上の手続き

株式会社における利益相反取引の承認

利益相反取引を行うためには、事前に株主総会(普通決議)又は取締役会設置会社においては取締役会の承認を得る必要があります(会356条、365条)。
株主総会で承認を受ける場合に、利益相反取引について株主総会の決議事項に特別利害関係人を有する者も、その株主総会決議において議決権を行使することができます。ただし、株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたときは、株主は訴えをもって当該決議の取消しを請求することができるとされています(会831条1項3号)。

それに対して、取締役会で利益相反取引について承認を受けるときは、決議事項について特別の利害関係のある取締役は、決議に加わることができません。

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抵当権設定を目的とする不動産登記申請をするときは、株主総会議事録または取締役会議事録が添付書類の一つとなります。

不動産登記申請の際に株主総会議事録を添付するときは、株主総会議事録を作成した者の記名押印が必要にな株主ります。作成者が押す株主総会議事録に押すべき印鑑は、個人の実印又は登記所に会社の印鑑を登録している者については登記所に届出をしている印鑑を押し、その印鑑証明書を添付する必要があります。

添付書類が取締役会議事録の場合は、出席した取締役と監査役が署名捺印または記名押印をします。取締役会議事録に押すべき印鑑は、個人の実印又は登記所に会社の印鑑を登録している者については登記所に届出をしている印鑑を押し、その全員分の印鑑証明書を添付する必要があります。

これら株主総会議事録や取締役会議事録と一緒に提出する印鑑証明書には有効期間の定めはありません。

合同会社における利益相反取引の承認

合同会社の場合の利益相反取引についての承認は、定款に別段の定めがある場合を除き、利害関係人となる業務を執行する社員以外の社員の過半数の承認を受けなければなりません(会595条)。

持分会社の社員は、原則、持分会社の業務を執行しますが、定款で定めることができます。そのため、業務を執行する社員に該当するか否かは、定款または会社の謄本で確認しましょう(会590条)。

抵当権設定を目的とする不動産登記申請をするときは、利害関係人となる業務を執行する社員以外の社員の過半数の承認を証する同意書が添付書類の一つとなります。この同意書には、過半数の同意者の記名押印が必要になります。同意書に押すべき印鑑は、個人の実印又は登記所に会社の印鑑を登録している者については登記所に届出をしている印鑑を押し、その全員分の印鑑証明書を添付する必要があります。

印鑑証明書の有効期間の定めがないのは、株式会社と同様です。

まとめ

利益相反取引にかかる抵当権の設定は、会社にリスクをもたらす可能性もあります。適切な手続きと議事録を作成しましょう。

当事務所は、登記申請を含む会社の法務・労務について相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。