抵当権設定と利益相反とは?担保提供・取締役会議事録を解説

会社が所有する不動産に抵当権を設定する際、会社自身の借入れなのか、取締役個人や他の会社の借入れのために担保を提供するのかによって、確認すべき手続きが異なります。

特に、会社が取締役個人の借入れを担保したり、役員が関係する他社の借入れのために不動産を担保提供したりする場合には、会社法上の「利益相反取引」に該当するかを確認する必要があります。

利益相反取引に該当すると、株主総会や取締役会などの承認が必要になる場合があります。
抵当権設定登記の際には、承認を証明する取締役会議事録や株主総会議事録などを添付することがあります。

この記事では、抵当権設定において利益相反が問題になるケース、株式会社・合同会社の承認手続き、担保提供に関する議事録や同意書など、登記前に確認しておきたいポイントを解説します。

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抵当権設定における利益相反とは?

利益相反取引とは、会社と取締役などの利害が対立する取引をいいます。

会社法では、株式会社と取締役との利益が相反する一定の取引について、会社の承認を受けることなどを定めています(会社法第356条、第365条)。

抵当権設定で特に注意したいのは、会社が誰の債務を担保するために、自社の不動産を提供するのかという点です。

会社自身の借入れのために抵当権を設定する場合

会社が自社の借入れのために、自社所有の不動産へ抵当権を設定する場合は、通常、会社自身の借入れに伴う担保設定として手続きを進めます。

取締役個人の借入れのために担保提供する場合

例えば、代表取締役が個人で金融機関から借入れを行い、その担保として会社所有の不動産に抵当権を設定するケースです。
借入れをしているのは会社ではなく、代表取締役個人です。一方、担保として提供する不動産は会社の財産です。

返済ができなくなれば、会社の不動産が競売などによって失われる可能性があります。このように、会社と取締役個人の利益が相反する取引は、会社法上の利益相反取引に該当します。

他の会社の借入れのために担保提供する場合

例えば、A社が金融機関から借入れを行い、B社が所有する不動産を担保として提供するケースです。

この場合、A社とB社の役員構成などによっては、利益相反取引に該当するかを確認する必要があります。

例えば、次のようなケースです。

  • A社とB社の代表取締役が同じ人物である(ケース1)
  • A社の代表取締役がB社の取締役を兼任している(ケース2)

「会社と会社との取引だから利益相反にはならない」と一律に考えることはできません。どの会社の誰が取締役なのか、誰が代表しているのかを確認することが重要です。

たとえば、
代表取締役が同じA社とB社があるとします。A社の債務をB社が担保を提供するとします。
この場合も、利益相反取引になります(ケース1)。

別のケースでは、
A社の代表取締役が甲で、B社の代表取締役が乙だとします。そして、A社の代表取締役である甲は、B社の代表取締役ではない取締役だったとします。A社の債務をB社が担保を提供するとします。このケースも、利益相反取引となります(ケース2)。

パターン2と同じようなケースでも利益相反にならないケースもあります。

たとえば、
A社の代表取締役が甲で、B社の代表取締役が乙だとします(ここまでは、ケース2と同じです)。
B社の代表取締役である乙は、A社の代表取締役でない取締役だったとします。A社の代表取締役である甲は、B社の代表取締役でも取締役でもありません。Aの会社の債務をBの会社が担保を提供するとします。このケースでは、利益相反取引とはなりません。

誰がどの会社の取締役なのか、誰が各社を代表して取引を行うのか、取引によって誰の利益がどのように影響を受けるのかなど、具体的な事情を踏まえて判断する必要があります。

→ 取締役とは?会社との関係から責任までを解説

根抵当権設定でも利益相反に注意が必要?

利益相反が問題になるのは、通常の抵当権設定だけではありません。根抵当権を設定する場合も、担保する債務や関係者によっては確認が必要です。

例えば、代表取締役個人の債務を担保するために、会社所有の不動産へ根抵当権を設定するケースでは、利益相反取引に該当するかを検討する必要があります。

根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の範囲で担保するものです。そのため、設定時点でどのような債務を担保するのか、債務者は誰か、会社と取締役の関係はどうなっているのかなどを確認することが大切です。

抵当権か根抵当権かという名称だけで判断するのではなく、担保する債務と当事者の関係を確認しましょう。

株式会社で利益相反取引を行う場合の承認手続き

株式会社で利益相反取引に該当する場合には、会社法に基づく承認手続きが必要です。
承認を行う機関は、取締役会を設置しているかどうかによって異なります。

取締役会を設置していない株式会社

取締役会を設置していない株式会社では、原則として株主総会の承認(普通決議)を受けます(会356条)。
利益相反取引について、どのような取引を行うのか、重要な事実を開示したうえで承認を受けます。

株主総会で承認を受ける場合に、利益相反取引について株主総会の決議事項に特別利害関係人を有する者も、その株主総会決議において議決権を行使することができます。

ただし、株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたときは、株主は訴えをもって当該決議の取消しを請求することができるとされています(会831条1項3号)。

不動産登記申請の際に株主総会議事録を添付するときは、株主総会議事録を作成した者の記名押印が必要になります。作成者が押す株主総会議事録に押すべき印鑑は、個人の実印又は登記所に会社の印鑑を登録している者については登記所に届出をしている印鑑を押し、その印鑑証明書を添付する必要があります。

→ 株主総会議事録の記載事項とは?

取締役会を設置している株式会社

取締役会を設置している株式会社では、原則として取締役会の承認を受けます(会社法第365条)。
この場合、利益相反取引について特別の利害関係を有する取締役は、承認決議に加わることができません。

そのため、取締役会を開催するだけでなく、誰が利益相反関係にあるのか、誰が決議に参加できるのかを確認する必要があります。

また、取締役が会社法第356条第1項第2号または第3号に該当する取引を行った場合には、取引後、遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会に報告する必要があります(会社法第365条第2項)。

承認を受けるための手続きと、取引後に必要となる報告は、別々に確認しておきましょう。

担保提供に関する取締役会議事録には何を記載する?

取締役会で利益相反取引の承認を受ける場合には、その決議内容を議事録に残します。

抵当権設定登記を申請する際には、会社法上の承認を受けたことを証明する書類として、取締役会議事録などを添付することがあります。
議事録を作成する際には、少なくとも、どの取引について承認したのかが分かるように整理することが重要です。

  • 担保提供を行う会社
  • 借入れをする人または会社
  • 担保する債務の内容
  • 担保として提供する不動産
  • 設定する抵当権または根抵当権の内容
  • 取引について承認したこと
  • 決議に参加した取締役など

具体的に記載すべき内容は、取引の内容や登記申請に必要な情報によって異なります。上記は確認事項の例であり、すべての案件で同じ形式が必要という意味ではありません。

また、利益相反取引の当事者となる取締役がいる場合には、決議に参加できる取締役の範囲にも注意が必要です。

議事録を作成する前に、会社法上の承認要件と、抵当権設定登記で必要となる書類の両方を確認しておくことが大切です。

→ 取締役会議事録の記載事項とは?

取締役会議事録に添付する印鑑証明書

利益相反取引の承認を証明する取締役会議事録を不動産登記の添付書類として提出する場合には、議事録の記載内容や押印、印鑑証明書などについても確認が必要です。

添付書類が取締役会議事録の場合は、出席した取締役と監査役が署名捺印または記名押印をします。取締役会議事録に押すべき印鑑は、個人の実印又は登記所に会社の印鑑を登録している者については登記所に届出をしている印鑑を押し、その全員分の印鑑証明書を添付する必要があります。

株主総会議事録や取締役会議事録と一緒に提出する印鑑証明書には有効期間の定めはありません。

合同会社の利益相反取引と同意書

合同会社などの持分会社では、株式会社とは異なるルールが適用されます。

会社法第595条では、業務を執行する社員が自己または第三者のために会社と取引をする場合など、会社と業務執行社員との利益が相反する取引について定めています。

まず業務執行社員を確認する

合同会社では、誰が業務を執行する社員なのかを確認します。
社員が原則として業務を執行する場合もありますが、定款で業務執行社員を定めていることもあります(会590条)。

そのため、定款や登記事項証明書(会社の謄本)などを確認し、会社の業務執行体制を把握しましょう。

合同会社の利益相反取引には誰の承認が必要?

合同会社では、定款に別段の定めがある場合を除き、利益相反取引について、利害関係を有する業務執行社員以外の社員の過半数による承認が必要となります(会社法第595条)。

株式会社のように、取締役会の承認を受けるという仕組みではありません。
承認にあたっては、誰が業務執行社員に該当するのか、誰が利害関係を有するのか、定款に別段の定めがあるかを確認する必要があります。

合同会社の同意書を作成する際の注意点

抵当権設定登記では、合同会社の利益相反取引について承認を受けたことを証明する同意書などが必要になることがあります。

同意書を作成する際には、次の点を確認しましょう。

  • 利益相反取引に該当する取引の内容
  • 承認が必要となる社員の範囲
  • 定款に別段の定めがあるか
  • 必要な社員の同意が得られているか
  • 登記申請に必要な記載、押印、印鑑証明書など

同意書に必要な記載や押印などは、具体的な案件に応じて確認する必要があります。

抵当権設定登記に必要な書類

利益相反取引に該当する抵当権設定では、通常の抵当権設定登記に必要な書類に加えて、会社法上の承認を証明する書類が必要になることがあります。

例えば、会社の種類や機関設計に応じて、次のような書類が考えられます。

会社の種類・機関設計承認を証明する書類の例
取締役会を設置していない株式会社株主総会議事録
取締役会を設置している株式会社取締役会議事録
合同会社承認を証明する同意書

添付書類は、作成者、記名押印、印鑑証明書などについても、登記申請の内容に応じた確認が必要です。

会社法上の承認を適切に受けていることと、登記申請に必要な書類がそろっていることは、分けて確認しましょう。

抵当権設定の前に確認しておきたいこと

会社の不動産を担保として提供する場合には、登記書類を作成する前に、次の点を確認しておきましょう。

  • 誰の債務を担保するのか
  • 担保を提供する会社はどこか
  • 借入れをする人・会社は誰か
  • 関係する会社の代表取締役・取締役は誰か
  • 役員を兼任している人はいないか
  • 株式会社か合同会社か
  • 株式会社の場合、取締役会を設置しているか
  • 合同会社の場合、定款で業務執行社員や承認方法をどのように定めているか
  • 利益相反取引に該当するか
  • どの機関の承認が必要か
  • 議事録や同意書に何を記載する必要があるか
  • 抵当権設定登記に必要な書類は何か

これらを事前に確認せずに書類の準備を始めると、後から議事録を作り直したり、必要な書類を追加で取得したりすることになる場合があります。

「抵当権を設定する」という登記手続きだけでなく、その前に会社として何を決めておく必要があるのかを確認することが重要です。

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まとめ

会社が抵当権を設定する際、会社自身の借入れではなく、取締役個人や他の会社などのために担保を提供する場合には、利益相反取引に該当するかを確認する必要があります。

利益相反取引に該当する場合には、会社法上の承認手続きが必要となり、抵当権設定登記の際にも、取締役会議事録や株主総会議事録、合同会社の同意書などが必要になることがあります。

  • 誰の債務を担保するのかを確認する
  • 関係する会社の役員構成や機関設計を確認する
  • 株式会社と合同会社では承認方法が異なることを理解する
  • 取締役会議事録や同意書の内容・押印などを確認する
  • 会社法上の承認手続きと登記に必要な書類を一緒に整理する

会社の不動産を担保に提供する場合には、個別の事情によって必要な手続きが異なります。取引を進める前に、会社の状況と登記に必要な書類を確認しておきましょう。

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